第1回さいとう・たかを賞 受賞作

SAITO TAKAO AWARD 2018

『アブラカダブラ 〜猟奇犯罪特捜室〜』

アブラカダブラ 〜猟奇犯罪特捜室〜

<書誌情報>

原作:リチャード・ウー
作画:芳崎せいむ
小学館「ビッグコミックオリジナル」増刊号にて連載中 
小学館ビッグコミックス既刊2巻

<作品紹介>

犯人から犯人へ、リレー形式で続く連続猟奇殺人。
ある人物によって“創られた”とされる殺人者たちを、若き捜査一課刑事・鐘巻と、引退した伝説の名刑事・油小路のタッグで追う本格“脳”サイコ・サスペンス!

受賞者コメント

Winners comment

シナリオライター/リチャード・ウー

本名・長崎尚志 脚本家・小説家・編集者。青年漫画誌編集長を経て2001年独立。リチャード・ウー名で他に『ディアスポリス』(すぎむらしんいち)。 『クロコーチ』(コウノコウジ)。長崎尚志名で『MASTERキートンReマスター』(浦沢直樹)等。

受賞の報をいただき、大変感激した理由は、さいとう・たかを氏こそ自分の師と(勝手に)思っていたからです。 編集者としてこの世界に入り、三年目で『ゴルゴ13』の担当に――当時のビッグコミックは百万部超、ゴルゴはすでに絶対的エースでした。 そしてさいとう氏といえば、編集者にきわめて厳しい人との噂。新米の私がビビらないわけがありません。
ところがお目にかかってみると、私の年齢やキャリアを無視して、氏は同格のパートナーとして遇してくれたのです。 「君が言いたいことを言ってくれないなら、ゴルゴといえど一年で終わってまうぞ。編集者はわしの厳しいプロデューサーでなければならんのや」と言うのが氏の口癖でした。 さらに実に懇切丁寧に、劇画の構成やシナリオ技法、作品の創作工程などを講義してくれるのです。
会社を卒業し、この賞をいただけたのも、氏の教えがあったからこそ! 不出来な塾生でしたが、この度はありがとうございます。

作画家/芳崎せいむ

芳崎せいむ

1989年『あかちゃんと天使』でデビュー。代表作に『金魚屋古書店』『テレキネシス ~山手テレビキネマ室~』(原作/東周斎雅楽)『うごかし屋』など。 『鞄図書館』(東京創元社「ミステリーズ!」)第4巻は5月に発売予定。 リチャード・ウー氏(別名義含む)とのタッグは、『デカガール』『うさぎ探偵物語』を含め、今作『アブラカダブラ~猟奇犯罪特捜室~』が4作目となる。

初めてさいとう・たかを先生の漫画を読ませていただいたのは、週刊少年サンデー誌上の『サバイバル』でした。 緻密な絵柄なのに子供が読んでもとっつきやすく、主人公が悲惨な状況に巻きこまれる世界観でありながら、作品全体から立ちのぼる清廉さ、上品さに、安心して夢中になれた良き思い出となっています。
思えば生まれて初めての劇画体験でしたが、「綿密な描きこみは決して読者をはじかない。 美しく快適な読書空間を読み手に差し出すことができるのだ」と、小学生ながら実感したものでした。
デビュー前、夢中になっていた少女漫画でも、銃や車の種類は実在の物をきちんと取り上げて描くようになっていたのも、 そういった劇画からの影響が色濃く反映されていたのに違いありません。
ウーさんの当代随一の原作、担当諸氏のたゆまぬ熱意、作画チームの並々ならぬこだわりによって、行きたくても一人では行けない場所にたどり着くことができました。感謝します。

編集者/中山久美子(小学館 ビッグコミックオリジナル編集部)

2004年小学館入社。少女コミック誌、「ビッグコミックスピリッツ」編集部を経て2014年より「ビッグコミックオリジナル」編集部在籍。 担当作に『忘却のサチコ』(阿部潤)、『るみちゃんの事象』(原克玄)など。現在は、『黄昏流星群』(弘兼憲史)、『出かけ親』(吉田戦車)、『メメント飛日常』(カラシユニコ)などを担当。

本作の校了紙(最終確認用の校正刷り)をご覧になったリチャード・ウー氏が「今回、けっこう面白かったですね」と、ふっとおっしゃる時があります。 そのスタンスに、私はいつもしびれるのです。自身の手を離れたものに対しての圧倒的な俯瞰の目。ヒットメイカーでありながら、氏に少しの慢心も無いことの表れだと感じています。 今回、この文を書く前にウー氏の「受賞コメント」を先に拝読しました。感慨深かったのは、 編集者時代のウー氏がかつてさいとう・たかを氏から薫陶を受けたその過程と全く同じもの(!)を、いま私自身が経験させていただいていることです。 (ウー氏と自分を同列に語るようでおこがましいですが)得がたい伝承に、感謝します。
そして、この作品の静謐な凄みは、作画を担う芳崎氏の執念の賜でもあります。人物の造形や表情、細部まで試行錯誤を重ねリアリティを追求する芳崎氏の情熱は、敬服に値します。
才能のみならず、コミックというものへの誠実さが突出するお二方が受賞できたこと、心より嬉しく思います。

選考委員コメント

Committees Comment

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池上遼一氏 コメント

脳の善悪と宗教をモチーフとした猟奇犯罪モノだが、その過程に現代の脳科学の技術が応用されており、 暗澹とした科学の一面を見せつけられ、慄然とさせられる。特異な発想の根拠となる深い知識が物語にリアリティーを与えており、この深い謎に満ちた物語を、 巧妙に計算された緻密な構成でじわじわと恐怖を盛り上げながら核心へと導いて行く手法に引き込まれる。
また、奇をてらわない正統な画風と演出、コマ運びにより、落ち着いて読める気品ある重厚な作品となっている。キャラクターの造形も面白い。

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相賀昌宏氏 コメント

異様な殺人事件の謎が、登場人物同士の会話の結びつきによりどんどん深まっていく。 伝説の名刑事・油小路の“電信柱登り”とそれに合わせた大胆な俯瞰の構図、癖のある表情、心の綾を読む言葉などが、読者の想像力を拡げていく。 一方で、キャリア管理官の若い刑事・鐘巻の端正で静かな表情も、かえって内面の複雑な感情を想像させる。 この二人のキャラクターと「善悪」「双子」といったキーワードから、人間の二面性を描いた、重厚なストーリーになっていくものと推測される。 心理学、脳科学、歴史などの専門的知識の裏付けによる説得力があり、知的な魅力に満ちている。先を読みたくなると同時に、ときどき過去のシーンの登場人物の表情を見つめ直したくなる。

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佐藤 優氏 コメント

最新の聖書学、脳科学の成果を十二分に吸収した上で、複雑な世界を複雑なまま描いている。ただし、読みやすい。シナリオと作画の間に有機的連関がなされている。
非常に完成度が高い作品。これを機に、もっと多くの人に読まれてほしい。

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やまさき十三氏 コメント

面白い!
読む者が気づいていない自分自身の心の闇まで抉り出す本格サイコ・サスペンスの傑作。
単行本2巻での評価は、少し早い気もするが、緻密な作画、構成と相まって、第1回さいとう・たかを賞には最も相応しい作品だと思う。

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さいとう・たかを コメント

完成度の高い作品である。テンポが少し気になるが、これは、掲載誌の性質ゆえだろう。 リチャード・ウー氏のシナリオは、芳崎氏の作画とうまく噛み合っている。
芳崎氏のさらなる構成力の向上と、プロデューサーである編集者のさらなる努力を願う。

第1回さいとう・たかを賞 最終選考会議録

最終選考会の会議録をこちらからご覧いただけます。