第2回さいとう・たかを賞 最終選考会議録

SAITO TAKAO AWARD 2019

第2回さいとう・たかを賞の最終選考会は2018年11月13日、小学館にて行われました。ここでは、最終選考での議論の様子を、選考委員の許可を得て特別公開いたします。

力作ぞろいの最終候補6作品――選考にあたっての印象

やまさき十三氏(以下、やまさき):
今回も進行を担当します、やまさきです。よろしくお願いいたします。
最初に…総評というか、今回の最終候補作全体の印象を、一言ずついただけたらと思います。では池上先生から。事前評価では無印にされている作品が3作ありますが、そのあたりも含めて、お願いします。
(※最終選考会前に、選考委員一人一人が最終候補作をA~Cの3段階で評価している)

池上遼一氏(以下、池上):
はい。まあ、今回候補作が6作ありましたけど、全作品を読み終えると同時に、僕はもう、迷うことなく3本って決めちゃったんです。評価をつけなかった3作品もレベルは高かったけど、ちょっと僕自身にはよくわからない部分があって…それで無印にさせてもらいました。
A評価をつけた3作品については、どれをとっても素晴らしいなあと思いました。

やまさき:
具体的な各作品の評価については、後ほどまたお伺いします。では、佐藤さん。

佐藤優氏(以下、佐藤):
はい。僕はやっぱりノンフィクション屋だから、認識に限界があります。しっかりしたストーリーがないものというのはちょっと、つらいところがあるんですね。
なので、場面の切り替えの激しさで面白く見せる…今回の候補作でいうと『グラシュロス』と『RDB』は、ある意味では脱構築された、すごくポストモダン的な作品だと思うんですけど、私にはあまり馴染まなかった部分がありました。

『イサック』『マイホームヒーロー』は、両方とも現実にはありえないことなんだけど、すごく勉強して、いろんなことをよく調べていて、そこにグイグイ引き込んでいく、ものすごい力があると思いました。

『ましろ日』については、光と影の「光」の部分だけに目を向けて作品を作るのってなかなか難しいと思うんですけど、この作品ではそれに成功している。主人公を複数にすることによって、上手にまとめていて…これもすごい作品だなと思っています。

やまさき:
では、長崎尚志さん。

長崎尚志氏(以下、長崎):
今回から選考に加わらせていただきました。よろしくお願いします。

僕はもともと編集出身なので…今回の最終候補作について、作家さんがそれぞれ名のあるというか、キャリアのある方々ですよね。それで、どうしても、過去の作品と比べてこの作品はどうかな、という視点が出てしまうこともあって、若干評価がからくなっているところがあると思います。

やまさき:
はい。僕としては、なんというか…この最終選考について、あまり推したくない作品の中から無理やり選ぶのではなく、力作ぞろいの中でどれを最後に残すかというのを討論していく形にできるといいなと願っていたんですが、まさにそういうふうになりそうな気がして、改めて選考に携わった皆さんに感謝を申し上げたいと思います。
各作品についての具体的な評価については、後ほど申し上げます。

では最後に、さいとう先生。

さいとう・たかを(以下、さいとう):
はい。とにかく皆さん上手くてね…とてもじゃないけど、勝てないわという感じで。
今は参考にできるものもいろいろあるし、どんどん勉強できるからというのもあるんでしょうけど。
ひと通り読ませてもらって…まず『マイホームヒーロー』、これは、タブーだったはずの世界を見事に、嫌味なく描いている。『グラシュロス』は目のつけどころが面白いんですが、ただ…絵が上手いせいなのか、人間が現代人に見えるんですね。そこでちょっと、ドラマとの歪みを感じましたね。『イサック』は絵も上手い、コマ運びも上手い、ストーリーの流れもよくできている。ただ…これは、ゴルゴだなとも思ったんですけど(笑)。

一同:(笑)。

さいとう:
まあ、そう思う人がいるかもしれんな…という感じでしたね。
それから『ましろ日』は、上品な作品ではあるし、読みやすさは素晴らしいけれども、それだけに少し、物足りない。『死神にだって、愛はある。』は、よくあるドラマではあるけれども、嫌味なくまとめている。『RDB』は、驚くばかりの画力ではあるが、読者の目をあまり考えていないようなのが気になりました。
ざっと言うとそんなところです。

やまさき:
はい、ありがとうございます。
今回は、選考委員の議論をよりフェアなものにする意味で、さいとう先生にはここでご退席いただき、残った我々4人で選考を進めていく形になります。

さいとう:
ではみなさん、よろしくお願いいたします。

【さいとう・たかを 退席】

やまさき:
進め方としては、1作ごとに皆さんの評価を出し合い、詰めていったあとに、最終的にどれを受賞作にするかという議論に進めていきたいと思います。
では、作品名の50音順ということで、まず『イサック』について。

僕はこの作品は評価をAにしました。日本の鉄砲鍛冶職人がヨーロッパを舞台に、傭兵のスナイパーとして活躍するという着想が奇抜で面白いし、その奇抜なストーリーを作画家も見事に描いている。楽しく読ませていただきました。
ただ…主人公のモチベーションが仇討ちのため、それからしほりという、師匠の娘を救うためというのが、どうも少しひっかかっていて。

鉄砲鍛冶職人というのは徳川幕府には非常に重用されていくんだけど、このイサックは誰の下についているのか。もしかしたら徳川方じゃなくて西側の軍勢なのか…そのあたりがまだわからないということも含めて少しもやもやするというか、どう展開していくのかが、非常に、気になっています。
では長崎さんから。

長崎:
候補作の中では圧倒的に、絵の技術的にもシナリオ的にも優れている作品だと思います。
今やまさき先生がおっしゃったように、この次の展開をどうするかは、結構難しくなるだろうなと思います。確かに復讐の一念だけ、しほりを助けるためだけっていうのは、キャラクターの動機としてちょっと弱いんですよね。

ただこの、日本人のほとんどが理解できないヨーロッパの30年戦争という難解な素材をうまく、楽しめる形に持ってきたアイデアが秀逸だと思うので…僕は、この作品が一番かなと思ってます。

佐藤:
ヨーロッパのものが日本にやってくるという作品はいろいろあると思うんですけど、日本人をヨーロッパに突っ込むという発想はなかなかなくて、ユニークですよね。

それで、やっぱり細部がすごい。たとえば「神様の悪口を言ったらいけない」というセリフがあって、それに対して「オランダでは平気だった」と返すシーンがありますよね。これは実際、当時のオランダでは大丈夫な雰囲気ありますから。そのあたりだったり…よく調べてるんだけど、頭でっかちな、うるさい感じにもなっていない。
ただ逆に、ヨーロッパの部分が厚くなっている分だけ、さっきやまさき先生がおっしゃったように、日本の部分が付け足し的というか、薄くなっているところはありますが。
あともう1点、これは日韓の作家による合作なんですよね。こういった形での、国際的なコミックの可能性を示しているという点でも、すごくいいんじゃないかなと…。
これはむしろお聞きしたいんですけど、韓国のマンガ家さんって、やっぱり絵のタッチとか、日本のマンガ家とは違うわけですか?

長崎:
この方も含めて、何人か上手い人はいるんですけど…なんていうのかな、日本を舞台にした作品を韓国のマンガ家が描くと、ちょっと変な感じになるんですよ。逆に、日本の作家が韓国を舞台にして描いても、何かまちがった感じになる。そうすると、合作となると、時代物かSFかっていう選択になる。この作品はそれがうまかったんじゃないかと思います。言葉のニュアンスとかも本当に違いますから。
僕は過去、韓国のマンガ家さん2人と組んだことがあるんですけど、ものすごく難しいんですよ。だから、そんな中でこれだけの作品を作っていることにも感心していて。そういう意味で、意義は大きい作品だと思います。

佐藤:
傭兵のあっさりした契約関係なんかも上手く描いてあって、そのへんは韓国はキリスト教が強いせいもあるのかな。とにかく、調べたことを肉体化して、うるさくならないように描いているのがすごいなと思います。

やまさき:
池上さんはいかがですか。

池上:
この作品、日本人としての矜持を感じさせられるような展開になっていくじゃないですか。韓国のマンガ家さんとしては、そういう作品を描くことに思うところもあるんじゃないかな、なんてことも考えてしまったんだけど…読んでいくと全然そういうことを感じさせないし、絵描きとしては見習わなきゃいけない、教えられるところがいっぱいありましたね。

それと当時のヨーロッパの、契約した傭兵を使って戦わせたというところが、日本人の忠誠心とか恩とか、そういったものとの対比として、わかりやすく活きてますよね。裏付けもしっかりしている。

長崎:
実際に、ヨーロッパの傭兵に日本の武士がいた記録は残っているんですよね。沈んでいた船から日本刀が出てきたという…だから、ありえる話ではある。

池上:
当時の火縄銃がヨーロッパの銃より優れていたっていうのも事実なんですよね。ヨーロッパはどちらかというと大砲がメインで、銃にあまりこだわっていなかったというのもあるんだけど。
あとはとにかく、アクションシーンの描き方がね、素晴らしいなあと思いました。ハリウッド映画を観ているような、スペクタクルな臨場感があって。

佐藤:
絵が上手いですよね、この人はとても…。

池上:
火縄銃の、発射した瞬間の表現とか…それから槍がね、同じ方向を向いていない槍のコマが連なっていくところなんて、動いているように見えるんですよ。そういうコマの割り方も含めて、素晴らしいなと思いましたね。