第2回さいとう・たかを賞 最終選考会議録

SAITO TAKAO AWARD 2019

コミックに独特の、作家と編集者の関係とは

やまさき:
では、この作品に関してはこれくらいにして…次に『グラシュロス』。これは池上さんから、いかがですか。

池上:
これは、下手したら凄惨なだけで終わってしまうようなテーマを、うまくユーモアを入れたり、ハッタリを入れたりして、痛快に読ませる…そういうシナリオの技術がすごいなあと思いましたね。因果応報というか、そういう輪廻の思想もうまく取り入れて、ある種の希望みたいなものまで描いているのも面白いなと思いました。

ただ、今回この選考をするにあたって僕が何を基準にしたかっていうと、「今を描いているか」ということなんですね。現代性を感じさせるかどうか。そういう視点で見ると、あまり目新しさはないかなと。

佐藤:
僕は最初にも少しお話ししたんですが、これは絵を楽しむ、場面場面を楽しむ作品なんじゃないのかなと。つまり極端な話、セリフがまったくなくても成り立つような。
だから、ストーリーがむしろ足を引っ張っているような気がしたんですよね。
戦いのシーンなんて本当に、血湧き肉躍ると思うんですよ。ただ、そこにあるストーリーだけ別途読んでみると、よくわからないというか。そのチグハグ感が気になりました。

やまさき:
はい。では長崎さん。

長崎:
ええと…昔、石川球太という動物マンガ家が描いた『原人ビビ』という作品がありまして。僕はあれを思い出したりして、ちょっとワクワクして読んでました。原始時代ものって難しいんですけど、冒頭はあれに近い、大河ドラマっぽいノリで、主人公の成長をどんどん描いていくのかなと思って期待しました。

ところが、途中からやや「マッドマックス」的というか、世界崩壊後の部族同士の争いみたいな方向に話が行っちゃったのが…これは僕のいやらしい見方ですけど、最初に描きたかったものと違う方向に行ったんじゃないかと思ったんです。
実力的にはものすごく高い人たちなので、もっとこう…進みたい方向に行けば良かったのに、と感じてしまって。

佐藤:
なんで変わっちゃったんでしょうね?

池上:
まあ、人気でしょう。

長崎:
この二人の実績から言って、設定された目標まで、売れなかった可能性はありますよね。それで、ちょっと違うんじゃない?ってことになった。このお二人ならもっと当たる作品を描けるはずだからってことで、短くする方向に持ってったんだと、勝手に思ってるんですけど。

池上:
僕もそのとおりだと思いますよ。

佐藤:
なるほど、そこのところが我々、活字でやっている作家とは、編集者とのインタラクション(相互作用)のあり方が違うわけですね。「読者との関係があるから、こういうふうに流れを変えてくれ」って、我々はまず言われないですから。

やまさき:
僕はこの作品は素直に面白くて、高く評価しています。
確かに終わり方が非常に優しくて、あっさりしているなという感じは受けたんですけど…めちゃくちゃなところにも素直に入っていけたし、先ほど佐藤さんはセリフはいらないんじゃないかっておっしゃったけれど、いわゆる”原始語”もおかしくて。

佐藤:
ああ、原始語おもしろかったですね。

やまさき:
何かをはぐらかしたり、何だ?と思わせたりね。これはもっとうまく使えたかもしれないですね。
では続いて、『死神にだって、愛はある。』に移りたいと思います。

この作品も、僕はA評価にしています。
まあ、アメリカ映画にもあった題材のような気もするし、そういった意味では損してる部分もあるとは思うんですけど、「もし人生をやり直せたら」という仮定の話から、「あなたも人生をお大事に」というメッセージを受け取れて。もっと読みたいと思った作品でした。
長崎さん、いかがですか?

長崎:
僕、この作品にはちょっとからい評価をしているんですが…つまり、この二人、まだまだうまくなるでしょっていう気持ちがあって。なので、将来性を考えて、今の段階ではまだ、こういう賞を取らないほうがいいんじゃないかと…偉そうなことを考えて(笑)、評価を低めにしてます。どこが悪いっていうところはないんです。

やまさき:
確かに、もっともっと見てみたいっていうところはありますね。では佐藤さん。

佐藤:
すごくいい作品だと思うんです。どれも読みやすく、ずーっと続けていける形になっていて。ただ1点、「死神」という存在が出てくるんだけど、この死神が、普通に優しくて…人間と変わらないんですよね。そこがちょっと、「死神」ならではのひとひねりが何かあると良かったなと。

池上:
えーと、僕はいま佐藤さんがおっしゃったこととはちょっと相反するんですけど、日常の中にいる普通の人が実は死神だっていうのが、逆に面白いなと思いました。

死神と一緒に、各話の主人公が制限された時間を生きるのを見ていくような演出で、「他人事じゃないな」みたいな感じで読ませる…そういう作者の意図が見えて面白いなと。
もっといろんな人の人生を見てみたいなという気持ちにさせられる作品でした。
ただやっぱりね、「限られた時間の中を生きる」っていうテーマ自体は、いろんなところで見てますから…そこがね、ちょっと引っかかりました。