第2回さいとう・たかを賞 最終選考会議録

SAITO TAKAO AWARD 2019

倫理観の両極にある作品たちを、どう評価するか

やまさき:
はい。ではこの作品はそのあたりにして、『マイホームヒーロー』に移りたいと思います。これは池上さんからお願いします。

池上:
はい。これは、僕の中ではもう、トップじゃないかと思ってます。
まずシナリオライターの驚異的な知識…僕なんかにはちょっとよくわからないくらいの、ネットやコンピュータについてのすごい知識に、圧倒されました。

それと、「ジェットコースタークライムサスペンス」と1巻の帯にあるとおり、息詰まるような展開の緊張感、その構成力が素晴らしいし、またそういう緊張感をうまく緩和するユーモアも散りばめられていて。文句のつけようがないプロの仕事だなと思います。やっぱりネット社会という「今」を描いているという意味で、時代性も感じました。

佐藤:
この作品は、犯罪小説的なんですけど、同時に恋愛小説的でもあって。この主人公の夫婦の、大学時代のサークルでの恋愛がずーっと続いているっていう…これが、物語を冷たい感じにはしていない、そういう面白さもありますね。
あと、いろんな技術を駆使する描写があるんだけど…意外と、そのからくりが偶然に依拠してるんですよね。カギになるところで偶然が入ってるんだけど、それに不自然さを感じさせない。それはやっぱり全体の勢いがあるからだと思うんだけど、完成度が高いなと思いました。

長崎:
すごくよくできてると思うんだけど…ちょっと、読者としては生理的にどうなんだろうっていうところが気になっています。猟奇もの、殺人ものをいっぱい書いている僕が言うのもどうかとも思うんですけど(笑)。

それと、ひたすら悪事を処理していくという話が続いていくと、いずれ読者は飽きちゃうんじゃないかなあ。「明るい家庭を取り戻す」っていうのが動機としては弱いと感じているのと…これだけのことをやったら、もう明るい家庭っていう未来はないよって思うんですよ。そういう、先の展開をどうするのかっていう部分を含めて…いまの時流には合ってるんですが、ちょっと我に返ると「違うだろ」っていう思いがどうしてもある。
あと、アメリカで大当たりしたドラマにかなり影響を受けてるように思えます。もちろん偶然かもしれませんが…それを、よく勉強していると見るか、どうなんだろうって見るか…という悩みもあります。
実に面白いし、何が悪いという点はないんです。絵も上手い、構成も上手い。

やまさき:
はい。僕もこの作品はA評価にしていて…もうまんまとハマったというか。一気に読んでしまった。確かに、いま長崎さんがおっしゃったような、どう解決するのかという問題はあるわけですけど…とにかく、このストーリーの巧みさ、絵の迫力。これはすごい作品だなあと思いました。
では続いて『ましろ日』。これは僕から行きます。

他の候補作を読んだあと、最後に読んだからというのもあるんですが…この作品のあたたかさに、僕は非常に、ホッとした感じがしました。

難しい問題を扱っていて、読んでいて刺さる部分もあるんだけど、それが重荷にならないというか…それは、シナリオライターと作画家それぞれの、この題材に対する立ち位置がしっかりしているからだろうと。

僕は、こういう作品がさいとう・たかを賞受賞作になってもいいなという思いもあって、A評価にしています。
では、長崎さんから。

長崎:
そうですね、僕も、さいとう・たかを賞にはこういう作品もあってもいいだろうなと思うのと…それから、この作品は善人しか出てこないんですけど、善人だけで作品を成り立たせるのって難しいと思うんですよ。それをこれだけ面白く読ませるという、技術の部分で、高く評価しています。最後に残って当然の力のある作品です。

佐藤:
これは最初にも言ったとおり、光と影の「光」の部分だけにスポットが当たっている作品であることは間違いないんです。でも、この視覚障害者のマラソンという題材を、多くの人に伝達する形で描くには、これ以外の描き方はたぶんないだろうと思います。

その中で適宜、加害者側の気持ちだとか…確かに登場人物は全員善人なんですけど、ほどよい悪意の描写を入れることで、感動の押し売りになるのを回避している。
そういうところで、構成が見事ですよね。

長崎:
感動の押し売りがない。この作品のすべてはそこですよね。

佐藤:
さらに、その一方で、同時に視覚障害者のためのウェブサイトを用意したりっていう丁寧さもある。かつ、感動の押し売りにしないという…この難しい連立方程式を解いているっていうことにおいて、編集者、版元を含めたチームとして、良い協調体制がとれてるということが言えると思うんですよ。デリケートな問題を扱っているだけに、一段階深いところまでコミットしていると思います。

やまさき:
池上さんはいかがですか。

池上:
まあ、いま先生方がおっしゃったとおりで、僕が言うことはもうあまりないんだけど…絵描きとしては、この絵描きさんには、演出力に才を感じるなーと思いました。
それから最初に思ったのは、きわめて普遍的な”幸福”観を追求しているマンガだなと。人によって何を幸福と感じるかは違う中で、それを描くっていうのは大変だなと思います。
誰も文句を言う人がいなさそうなマンガですよね。僕個人としては、毒性のないマンガってあまり興味がないんですが…(笑)、それでもこの作品で描かれる、清々しい感動は魅力的です。

やまさき:
はい。では最後に、『RDB』。

僕はこの作品だけはB評価にしています。もうひとつこう、新しい作品という感じが足りないかなと感じまして…。長崎さん、いかがですか。

長崎:
はい。たかしげ宙さんのシナリオって、その独特のノリで、結構、絵描きさんを悩ませる作風なんじゃないかと思うんです。たぶん、この作画の六本順さんも、最初は戸惑って、試行錯誤だったんじゃないですかね。それが2巻くらいからうまく構成できるようになってきてるんですよ。

だから、この先もうちょっと経ってからノミネートされたら、また評価が変わってくるんじゃないかと思うんですけど。

佐藤:
テーマ自体はすごく面白いと思うんです。ただ、コレクションというのは、たとえば昆虫採集でも、切手の収集でも何でもそうですが、集めていくうちにだんだん…偏っていくんですね。集めている人の独特の価値観が出てきて。この作品についても、そういうシナリオライターの価値観に、作画も、作品全体も、ぎゅーっとひっぱられている感じがする。

でも、2巻でそこから抜け出そうとしているのを感じるので…やっぱり3巻目くらいになると、落ち着いた流れになるんじゃないのかな。先が読みたいと思いました。

池上:
僕は出だしのところには時代性を感じたのですが、知識の押し売りのような感じがして、読みづらかったのも事実です。
絵描きとして感じたのは…この絵描きさんは、ユーモアの表現は上手いんだけど、アクションシーンがちょっと、わかりづらい。だから、そのあたりをもう少し、勉強されるといいのかなとは思いましたね。